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名古屋高等裁判所金沢支部 昭和25年(う)466号 判決 1950年11月08日

被告人

谷内菊盛

主文

原判決を破棄する。

本件を金沢地方裁判所輪島支部に差し戻す。

理由

弁護人天野春吉の控訴趣意は末尾添附別紙記載の通りである。

よつて原判決を見ると原審は本件公訴事実第一乃至第五の事実を全部有罪と認定し起訴状記載をそのまま判決の事実理由の部に登載した上以上全般の共通証拠として一、被告人の当公廷に於ける供述、二、被告人の司法警察員並に検察事務官に対する供述調書、三、被告人の身上調書、四、領置調書(証第一、二号)を掲げているものである。そこで右の三、被告人の身上調書なるものを記録によつて探索すると結局記録第九十七丁の所謂本籍照会調書に外ならないので、これが原審認定事実のいづれの証拠たることを得ないことは明かである。次に右四、領置調書を記録によつて探すと記録第四十二丁添附の西浜甚夫提出証一、物品売渡証並に証二、印鑑の領置調書であることを知るが、同売渡証並に印鑑とは如何なるものかを前記原審挙示の証拠を渉猟した結果漸く前記二、被告人の司法警察員に対する供述調書中記録第七十六丁あたりに記載された問答により始めて被告人が判示第三並に第四の金員を交付せしめるに当り松下郁夫又は西浜甚夫に手交した物件であることを了知することが出来る次第である。しかし同物件は右の如く判示第三又は第四の認定事実に関連する証拠たるに過ぎず其の余の判示第一、第二、第五の各認定事実には無関係の物件と云わなければならないので、同物件の前記領置調書は仮に判示第三、四の各事実の補強証拠となることが出来るとしても其の余の各判示認定事実に関しては何らの証拠価値なく結局これら事実に対しては原判決挙示の前記一及び二の被告人の供述又は供述調書以外に之を補強すべき何らの証拠がないことに帰する。よつて原判決は其の認定した併合罪の一部につき刑事訴訟法第三百十九条第二項に規定する採証の法則に背反した違法があり、同違法は判決に影響を及ぼすことが当然であるから原判決は全部其の破棄を免れない。本件控訴理由一、は理由がある。

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